【背景】
化学療法により誘発される好中球減少症やそれに伴い生じる発熱性好中球減少症(FN)は、敗血症など重篤な感染症を引き起こし、治療延長や中止、QOLの低下を招く。近年、薬物の動態や感受性に関連する遺伝子多型がFN発現に影響することが示唆されている。FNの発現と患者個々の遺伝的要因に関連性が見出せれば、G-CSF製剤による予防や抗がん薬の投与量調節を行うなど、より安全な治療を進めることが可能となる。
【目的】
本研究では、AC療法が施行された乳癌患者を対象とし、FNの発現に影響を及ぼす遺伝的因子を探索することを目的とした。
【方法】
術前または術後にドキソルビシンとシクロホスファミドの併用療法(AC療法)が施行された乳癌患者167名を対象とし、対象患者から同意取得後、末梢静脈血を採取し、抗がん薬の動態や感受性に関連する遺伝子多型を解析した。解析した遺伝子多型とFN発現の有無との関連について、単変量ロジスティック回帰分析を用いて検討を行った後、P値が0.15未満となった遺伝子多型に加え、FN発現に影響する既知の背景因子である年齢、BMI、治療前好中球数を独立変数に、FN発現の有無を従属変数に組み込んだ多重ロジスティック回帰分析を行った。調整オッズ比(OR)とその95%信頼区間(CI)を算出し、FN発現に独立して寄与する因子について検討した。
【結果】
対象患者167名のうち、34名(20%)にFNの発現が認められた。単変量解析の結果、ABCB1 3435C>T (P = 0.091)、CYP3A5 6986A>G (P = 0.149)、ERCC1 8092C>A (P = 0.038)が関連性を示す遺伝的因子として抽出された。これらの因子に年齢、BMI、治療前好中球数を加えた多変量解析の結果、ERCC1 8092C>A:CC (OR:2.392;95%CI:1.028-5.587;P = 0.043)が、FN発現に影響する因子であることが示された。
【結論】
本検討により、AC療法施行乳癌患者においてERCC1 8092C>A遺伝子多型がFNの発現に影響を与えることが示された。
【背景】再発乳癌の治療成績は新規薬剤の登場などにより経時的に向上していると考えられている。しかし、未だ十分満足できる結果ではなく、さらなる予後改善のためには、その臨床像を詳細に解析し、問題点を明らかにすることが重要である。
【目的】当科にて手術を行い、再発を認めた症例を対象に、再発後の臨床経過を解析し、サブタイプ(ホルモン受容体(HR)+/HER2-, HR+/HER2+/ HR-/HER2+, HR-/HER2-(triple negative; TN))や治療成績との関連を解析し、予後規定因子を同定することを本研究の目的とした。
【対象・方法】2000~2014年に当科にて手術を施行した原発性乳癌(Stage IV,重複癌、両側乳癌を除く)3286例の中で、再発を認めた345例を対象に、サブタイプや臨床病理学的因子、治療内容と予後(再発後生存期間および原発乳癌に対する治療開始からの全生存期間(OS))との関連を解析した。
【結果】全観察期間中央値75ヶ月(6-201ヶ月)、再発後観察期間中央値29ヶ月(0-176ヶ月)、局所・領域再発のみが83例、遠隔転移を伴うものが262例であった。再発及び遠隔転移までの期間(RFI, DMFI)はHR+/HER2-群で最も長かった。サブタイプ別では、再発後の生存期間(p<0.0001)、全生存期(p<0.0001)ともにTN群で最も不良であったが、他の3群間で有意差は認められなかった。RFI, DMFIが短いほど予後不良であった。この傾向は、特にHR+/HER2-, TN群で有意であった。一方、再発までの期間と各サブタイプの予後との関連では、2年以内の再発群ではTN群の予後が最も不良であったが、2年後以降の再発ではサブタイプ間で再発後の生存期間に有意な差は認められなかった。再発に対する一次、二次治療期間、及び一次+二次治療期間(内分泌療法または化学療法)の長いものほど再発後生存期間及びOSともに有意に良好であり、その傾向はどのサブタイプ群でも認められた。また、どのサブタイプにおいても、初発再発部位が臓器転移あるいは肝転移のあるものは有意に予後不良であった。
【結語】再発後の予後改善のためには、どのサブタイプにおいても一次、二次治療として効果の高い治療を行うことが重要と考えられた。また、再発リスクが高いと考えられる症例に対して、RFIやDMFIを長く保つような有効なadjuvant therapyの確立が重要と考えられる。TN群に関しては特に有効な治療開発が必要と考えられる。
【目的】
乳癌術後の再発リスク増加に肥満の関与が指摘されており, 術後に適切な栄養管理を行うことが重要である.我々は2015年1月より術後栄養指導と体組成分析(InBodyS10®)を乳癌術後クリニカルパスに組み込んだ術後栄養管理を開始した.また2016年度診療報酬改定でのがん患者栄養食事指導料算定開始に伴い, 継続的な個別栄養指導体制を確立したので, その実際と結果について検討報告する.
【対象と方法】
2015年1月~2017年3月までに再発ハイリスクである腋窩リンパ節郭清施行あるいは肥満患者を対象とし, 栄養指導と体組成分析(InBodyS10®)を併施した61例.患者背景因子, 体組成分析値, 術前CT画像(L3レベル)などを解析するとともに栄養指導の実際, 結果について検討した.併せて術後1年間経過を追跡できた37例について手術時と術後1年に分類し, 体組成分析, 補助療法の有無の比較検討を行った.
【結果】(結果は平均値)
年齢57.0±17.0歳, BMI23.6±4.9kg/m2, 体組成分析では, 体脂肪率(基準値18~28%)28.9±9.6% , 骨格筋指数(SMI)6.3±0.9kg/m2. CT画像では, 内臓脂肪面積87.9±62.2cm², 体周囲長83.6±13.3cmであった. また手術時と術後1年では, BMIは手術時:24.5, 術後1年:25.3, 体組成分析では, 体脂肪率%は手術時:30.4, 術後1年:33.6と術後1年後に有意に高値(P<0.001), SMI は手術時:6.4, 術後1年:6.4と変化は認めなかった.また, 術後化学療法を行った群(17例)では, SMI は手術時:6.3, 術後1年:6.1と低下傾向, 一方で体脂肪率%は手術時:27.6, 術後1年:31.9と有意に増加した(P<0.01).
【考察と結語】
体組成分析値から, 術後の体脂肪率は基準値より高値であったが, SMIは両群とも女性サルコペニア・アジア診断基準5.7 kg/m2以上で, 筋肉量は保たれることが判明した. 術後1年ではBMI, SMIに変化はないが, 体脂肪率は有意に増加し脂肪の蓄積が見られたため, 術後半年頃での栄養指導が必要と考える.さらに, 再発リスクを考慮した術後の栄養指導は, 体重管理のみでなく, 筋肉量を維持しつつ脂肪量を減らす指導が必要である. また乳癌術後は補助療法が長期にわたり必要となるため, 症状や生活状況を把握し治療にあわせた適切な栄養指導を術後定期的に行うことが重要である.
【緒言】ベバシズマブはVEGF阻害薬の一つとして多種のがんで広く使用されている。我々は乳がんに対するベバシズマブの治療抵抗性メカニズムを解明するため、FDG-PET、FMISO-PET、MRI、拡散光イメージング(以下DOSI)の画像モダリティを用いて機能解析をしたほか、マルチプレックスサイトカイン解析を行った。
【方法】局所進行乳癌28名に対し、ベバシズマブとパクリタキセルの標準療法を6サイクル施行した。治療前と2サイクル目にFDG-PET、FMISO-PET、MRI、DOSIの4つのイメージングを施行した。また初回導入時のみベバシズマブ単剤投与をし、DOSIによる組織酸素飽和度(SO2)とヘモグロビン濃度の測定のほか、血液サンプル採取を経時的に行った。
【結果】FDG-PETによる糖代謝低下率(△SUV cutoff:-20%)で治療反応(R)群18例と非反応(NR)群10例に分けた。NR群はR群と比較して全生存期間が短く、腫瘍縮小効果が低く、FMISO-PETにより計測した細胞内低酸素の程度が有意に高いことが分かった。またベバシズマブ単剤投与後の変化は、NR群では投与直後1-3日目に腫瘍SO2が急速に低下し急性低酸素を示したほか、VEGF,FGF,TGFβなどの血管新生因子やIL6,IL8,TNFαなどの転移誘導サイトカインはむしろ上昇する傾向となった。一方、R群の腫瘍SO2は高値を維持し、これらのサイトカインは低下した。
【結論】ベバシズマブ投与後、急性低酸素の誘導と伴にがん血管新生や転移が進む患者群の存在を示唆した。ベバシズマブの治療抵抗性の一つに急性低酸素による微小環境の変化が関わっている可能性がある。