
【緒言】食道癌手術は外科的侵襲の大きさや術後嚥下障害、喀痰排出困難をきたしやすいことから、術後誤嚥性肺炎の頻度が高いことが知られている。しかし口腔衛生状態と術後肺炎発症との関連についてエビデンスレベルの高い研究の報告はない。今回周術期口腔ケアの食道癌術後肺炎予防効果に関する多施設共同後ろ向き観察研究を行い、傾向スコアマッチング法により解析を行ったので報告する。
【対象と方法】長崎大学、鹿児島大学、神戸大学、信州大学、関西医科大学、名古屋市立大学、大阪市立大学、奈良県立医科大学において食道癌手術(内視鏡的手術を除く)を行った539例を対象とした。年齢、性、BMI、喫煙、飲酒、糖尿病、高血圧、クレアチニン、アルブミン、1秒率、腫瘍の位置、病期、手術法、手術時間、出血量、術前化学療法、術後嚥下障害、口腔ケア介入の有無、術後肺炎発症の有無について診療録より調査した。術後肺炎発症を従属変数、その他を独立変数とし、両者の関連についてFisher's exact test、one-way ANOVA、multiple logistic regressionにより多変量解析を行うとともに、口腔ケア介入、非介入について傾向スコアマッチングを行い背景因子の調整をした上で、口腔ケア介入の術後肺炎予効果について解析した。本研究は各参加施設のIRBの承認を得た上で実施した。
【結果】539例中術後肺炎は103例(19.1%)に発症した。多変量解析では、長時間手術(p<0.001、OR=1.003)、術後嚥下障害あり(p<0.001、OR=7.862)、口腔ケア非介入(p=0.001、OR=0.438)の3因子が術後肺炎発症と有意に関連していた。傾向スコア法によりマッチングしたところ420例がマッチし、単変量解析で年齢、喫煙、飲酒、手術時間、術後嚥下障害とならんで口腔ケア非介入(p=0.003)が、多変量解析で高齢、長時間手術、術後嚥下障害とならんで口腔ケア非介入(p=0.001、OR=0.365)が術後肺炎発症の有意なリスク因子となっていた。
【結論】本研究は周術期口腔ケアが食道癌術後肺炎発症予防に有効であることを示唆する初の大規模な調査である。現在、唾液中細菌数を指標に、肺炎予防に有効な口腔ケア方法の確立を目指して研究を行っている。
【背景】グレリンは,成長ホルモン分泌作用,抗炎症作用など多数の生理活性を有することが知られている.食道癌手術周術期におけるグレリン投与ランダム化比較試験の結果として,グレリンによる抗炎症効果,肺合併症抑制効果について我々は報告してきた.今回,本臨床試験におけるグレリン投与による抗炎症効果が予後へ与える影響に関して検討したので報告する.
【対象と方法】当科において施行された「胸部食道癌周術期におけるグレリン投与ランダム化第II相試験登録患者(グレリン群20例,プラセボ群20例)」を対象とした.本試験における2群間において,患者背景因子,手術因子,術後SIRS期間,CRP推移,病理学的進行度・組織学的効果判定,予後(3年無再発生存期間(RFS)および3年全生存期間(OS))に関して比較検討を行い,同時にCRP値と予後の関連についても検討した.
【結果】グレリン群:プラセボ群において,それぞれ男女比(18/2:17/3),年齢中央値(範囲)(66(53-75):68(57-74)歳),BMI(22.2(16.3-26.1):20.7(17-26.2)kg/m2),原発巣の局在(Ut/Mt/Lt)(3/9/8:2/11/7),術前臨床病期(0-II/III-IV)(9/11:10/10),リンパ節郭清(2領域/3領域)(8/12:9/11),手術時間(420(328-493):431(340-571)分),出血量(397(200-1220):425(100-1030)ml)であり,患者背景,手術因子に差を認めなかった.グレリン投与に伴う合併症はなく,グレリン群において術後SIRS期間の短縮(2.7±2.8日:6.3±6.0日,p=0.035),術後CRP推移抑制効果(ANOVA検定:p<0.05)が得られた.病理学的進行度0-II/III-IVはグレリン群14/6,プラセボ群9/11(p=0.11),組織学的効果判定0, 1a, 1b/2, 3はグレリン群12/7,プラセボ群13/5であり,有意差を認めなかった.観察期間中央値1132(30-1727)日において,グレリン群(3年RFS67.2%・OS67.5%)はプラセボ群(47.4%・49.5%)より予後良好な傾向がみられた(p=0.154・0.077).術後3日目CRP(カットオフ値15mg/dL)は予後と強く相関し,CRP Low群(3年RFS69.0%・OS68.7%)はHigh群(31.3%・28.9%)より有意に予後良好であった(p<0.01).CRP Low群はグレリン群(90%)に有意に多かった(プラセボ群(45%))(p=0.0057).
【結論】食道癌手術周術期におけるグレリン投与は抗炎症効果により術後CRPを減少させ,予後改善に影響する可能性が示唆された.
[緒言] 食道癌術後の合併症のひとつに心房細動(Af)があげられる.Afは軽視されがちな合併症であるが,私達は,食道癌切除後早期のAf発症患者はその後の縫合不全や呼吸不全といった重篤な合併症を有意に引き起こすことを報告した(Ojima T et al. Surg Today 2014).食道癌術後早期のAfはその後の重症合併症へのトリガーとなる可能性がある.[RCT] 私達は食道切除後におけるランジオロール塩酸塩を用いたAf発症抑制効果に関する第III相RCTを行った(UMIN 000010648).2013年1月~2016年2月までの100例の胸部食道癌切除症例を無作為にプラセボ群(P群) ランジオロール群(L群)に割り付け,二重盲検でPOD1から3 gamma 72時間投与を行った.症例数設定根拠はpreliminary studyの結果をもとに有意水準両側5%,検出力80%にて算出した.Primary endpointは術後1週間のAf発生頻度 secondary endpointは術後全Af発生頻度,術後合併症発生頻度,投与期間中の心拍数,血圧の変動,炎症性指標 (白血球数 CRP値 体温 IL-6値 HMGB1値) とした. [結果] 50例がP群50例がL群に割り付けられた.両群の患者背景,手術関連因子や体液バランスは均等であった.術後1週間のAf発生頻度はP群30%,L群10%(P=0.012)であった.また術後合併症発生頻度はG2以上でP群60% L群40% (P=0.046) G3a以上でP群32% L群8% (P=0.003)であった.投与中はL群で脈拍数の減少を認めるものの有害な血圧の変動認めなかった.炎症性指標では有意にL群で投与中のIL-6値の低下を認めた.[結語] 本RCTの結果,胸部食道癌術後周術期に低容量の短時間作用型ベータ1遮断薬を用いることで周術期Af発生のみならず術後全合併症を軽減できる新エビデンスが確立された.今後食道癌術後周術期管理にルーチンに組み込むことが推奨される(Ojima T et al. Br J Surg 2017 in press).
目的:当院における食道癌治療成績を高齢者に着目し検討を加えた。
対象・方法:1992年6月-2015年12月までに当科で治療をおこなった食道癌303症例を対象とした。75歳未満を対照群(C群)、75歳以上を高齢者群(E群)としretrospectiveに検討した。なお治療に際しては併存疾患を含め術前より麻酔科、循環器内科など他科と協議し、当科カンファランスで適応を決定した。
結果:男性252例女性51例。C群270例E群33例。E群では非癌併存疾患を有する割合が有意に高かった。臨床病理学的諸因子は両群間で差は認めなかった。術式では再建術式/吻合位置は両群で差を認めなかったものの(P=0.154/0.073)、郭清領域ではE群で3領域郭清を行った症例はなく1領域郭清に留まる例も多かった(P=0.000)。根治手術は268例に施行され、両群間に差は認めなかった。手術時間はE群410±121分、C群512±135分と高齢者群で有意差に短かった。出血量では差を認めなかった。化学療法はE群で施行された割合は低かった。放射線治療では差は認めなかった。
術後生存日数に関する予後規定因子を多変量解析で検討すると根治度(Hazard ratio: 1.938)、郭清領域(0.715)、化学療法(1.297)が有意な因子となり深達度、リンパ節転移を加えて独立予後規定因子となった。年齢はモデルに残らなかった。
術後生存日数に関する予後規定因子を多変量解析で検討すると根治度(Hazard ratio: 1.938)、郭清領域(0.715)、化学療法(1.297)が有意な因子となり深達度、リンパ節転移を加えて独立予後規定因子となった。年齢はモデルに残らなかった。
術後無再発日数に関して予後規定因子を単変量解析で検討すると、年齢75歳以上(P=0.0197)、術前化療(P=0.0041)、術後補助化療(P=0.0003)、術後再発化療(P=0.000)、術後放治(P=0.0000)、手術時間(480分、P=0.0371)、深達度(P=0.0000)、リンパ節転移(P=0.0000)、Stage(IIIa vIIIbを除き全てP<0.05)、根治度(P=0.0000)が有意な因子となった。多変量解析では年齢(Hazard ratio: 3.553)、化学療法(1.863)、リンパ節転移(2.084)が有意な因子となり、手術時間、Stageを加えて独立予後規定因子となった。
結語:高齢者食道癌症例は併存疾患を有する割合が高いものの、適切に手術適応を決定することにより非高齢者と同等の生存日数が得られていた。一方、年齢は原疾患の進行度とともに再発のリスク因子となっていた。
【背景】
近年,内臓脂肪型肥満が癌の発生,増殖,転移などに関与している可能性が示唆されているが,その生物学的機序については明らかではない.今回内臓脂肪型肥満を併存する食道扁平上皮癌の臨床病理学的特徴を明らかにすることを目的とした.
【対象と方法】
2012年から2016年に食道扁平上皮癌に対して切除を施行した364症例を対象とした.術前CT画像からSYNAPSE VINCENTTMを用いて,腹部の皮下脂肪面積(SFA)および内臓脂肪面積(VFA)を測定した.内臓脂肪型肥満の有用な指標である内臓脂肪皮下脂肪面積比(VS比)を計算し,VS比と臨床病理学的因子の関連について検討した.
【結果】
高VS比群ではリンパ管侵襲陽性例や転移リンパ節個数が有意に多かった(P < 0.01,< 0.01).また静脈侵襲陽性例が多く(P = 0.06),病期がより進行している傾向にあった(P = 0.11).術前に化学療法あるいは化学放射線療法を受けた症例においては,高VS比群で病理組織学的治療効果が有意に不良であった(P = 0.04).術前治療別に検討すると,手術単独症例および術前化学療法症例いずれにおいても, 高VS比群ではリンパ管侵襲陽性例が有意に多かった (P = 0.01,< 0.01).リンパ管侵襲陽性に関する多変量解析では,高VS比は病理学的T因子とともに独立したリスク因子であり(オッズ比1.99,95% CI 1.23-3.22,P < 0.01),術前化学療法および術前化学放射線療法はいずれもリンパ管侵襲を抑制する独立した因子であった.
【結語】
内臓脂肪型肥満は食道扁平上皮癌のリンパ管侵襲やリンパ節転移,また術前治療に対する効果と有意に関連する.内臓脂肪型肥満は,食道扁平上皮癌の増殖,転移に悪影響を及ぼしていることが示唆された.
【背景】食道癌は術前治療後に根治切除し得てもpN(+)、特にpN2以上(pN個数≧3)の再発率は高く3生率は3割に満たないが、有効な術後補助療法は確立されていない。一方、URLC10、CDCA1、KOC1は食道扁平上皮癌細胞株特異的発現を示すHLA-A-24拘束性のがん-精巣抗原で、そのエピトープペプチドの特異的CD8+ T cell誘導能と安全性は第I相臨床試験で確認した。そこで我々は(術前治療+根治切除)後のpN(+)食道扁平上皮癌症例を対象に、各ペプチド1mgを含む3種混合溶液をHLA-A-24:02陽性例には術後20回(weekly×10回+biweekly×10回)まで再発にかかわらず投与(ワクチン群:V群)、陰性例は再発が確認されるまで無治療で経過観察する(C群)という食道癌術後補助ペプチドワクチンの探索的第II相臨床試験(UMIN000003557)を行なった。主要評価項目は無再発生存期間 (RFS)で、各群30例を目標に行い、2009年12月~2014年9月で登録を終了した。
【目的】術後補助ペプチドワクチン療法の再発予防・予後改善効果とCD8+ T cellの誘導ならびに治療前の腫瘍微小環境との関連性を検討する。
【方法】2017年3月の時点で予後を解析し、CD8+ T cellの誘導はElispot assay、腫瘍微小環境は切除標本の免疫染色(抗CD8抗体と抗PD-L1抗体)で評価した。
【結果】V群:33例、C群:30例。2群間の臨床病理学的背景因子に有意差はなかった。5年RFSはV群/C群=44.6%/31.6% (p=0.207)。V群の全例でCD8+ T cellは誘導されたが、誘導したペプチド数別の3年RFSは3個(n=20)/2個(n=11)/1個(n=2)=59.2%/36.4%/0% (p=0.007)で、誘導したペプチド数が多いほど再発を抑制した。5年食道癌特異的生存率 (ECSS)は、V群/C群=58.4%/35.4% (p=0.156)。pN stage別でもpN1でV群(n=11)/C群(n=15)=90.0%/50.0%、pN2-3でV群(n=22)/C群(n=15)=43.8%/24.0%とV群で良好であった。<腫瘍微小環境>ワクチン投与前の切除標本で腫瘍浸潤CD8+(-)例では5年ECSSはV群(n=24)/C群(n=21)=56.6%/26.7%と予後改善がみられるも、(+)例では両群同等の成績であった。CD8+とPD-L1の発現で微小環境をType I:(+/+)/II:(-/-)/III:(-/+)/IV:(+/-)に分けると5年ECSSは100%(n=3)/66.4%(n=19)/20.0%(n=5)/44.4%(n=6)で、CD8(-)/PD-L1(+)のType IIIが最も予後不良であった。
【結語】食道癌術後補助ペプチドワクチン療法は高率に特異的CD8+ T cellを誘導して再発を抑制するが、その効果は腫瘍微小環境の影響を受けることが示唆された。