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頭頸部

頭頸部扁平上皮癌における癌幹細胞様細胞マーカーの発現とその臨床的意義に関する検討

演  者:
羽生 昇
所属機関:
国家公務員共済組合連合会立川病院 耳鼻咽喉科

【背景と目的】近年頭頸部癌に於いてもside population(SP)細胞の同定とその癌幹細胞としての可能性が報告されているが、その役割は十分に解明されていない。そこで1)舌扁平上皮癌細胞株のSP細胞における癌幹細胞関連遺伝子の発現とその細胞動態への影響、2)臨床腫瘍検体における同関連遺伝子の発現とその臨床的意義を検討した。【方法と結果】1) DNA結合色素Hoechst33342を用いた色素排泄法により舌扁平上皮癌細胞株SAS, HSC4, SCC4をflowcytometryにてsortingした結果,SP分画はSASにて0.9%、HSC4にて0.7%、SCC4にて10.2%、各々認められた。SAS, SCC4のSP細胞とnon SP細胞の間で癌幹細胞関連遺伝子の発現をRT-PCRにて比較した結果、いずれにおいても転写因子Oct3/4、Nanogの発現はSP細胞で顕著に高く、免疫細胞化学染色でも同様の結果が示された。in vitro migration assayおよびinvasion assayの結果、遊走能と浸潤能はSP細胞のほうが高かったのに対し、in vitro proliferation assayの結果、細胞増殖能には明らかな差を認めなかった。2)慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科で初回治療として舌部分切除のみを行ったstage I/II舌扁平上皮癌症例50例の臨床検体の腫瘍細胞核におけるOct3/4とNanogの発現を免疫組織化学染色にて評価し,後発頸部リンパ節転移(delayed neck metastasis: DNM)との相関を検討した。DNMは13例に認められ、Oct3/4の発現(p=0.001)、Nanogの発現(p=0.001)、との間に有意な相関が認められた。臨床病理組織学的因子ではvascular invasion(p=0.009), mode of invasion (3, 4 vs 1, 2) (p=0.036), muscular invasion(p=0.010)が単変量解析にてDNMと有意な相関を示した。Logistic regressionによる多変量解析の結果、DNMに対する独立相関因子はOct3/4発現(risk ratio=14.78, p=0.002)とvascular invasion (risk ratio=12.93, p=0.017)であった。【考察】頭頸部癌幹細胞の指標としてOct3/4とNanogは有用な候補となりうる可能性が示唆された。さらにこれらの指標を発現する癌幹細胞様細胞の存在が、細胞遊走能および浸潤能の亢進を介して、stage I/II舌扁平上皮癌のDNMに寄与している可能性が示唆された。


中咽頭癌に対する放射線化学療法の検討-多施設による後方視的観察研究-

演  者:
加納 里志
所属機関:
北海道大 耳鼻咽喉科頭頸部外科

背景:進行中咽頭癌に対する標準治療は外科的切除と術後放射線治療であるが、近年、嚥下や発声などの機能温存を目的として、手術から化学療法同時併用放射線治療(concurrent chemoradiotherapy: CCRT)に移行してきている。しかし、手術とCCRTを直接比較した報告は世界的にも少なく、前向きな無作為化比較試験も存在しない。そのため、本研究ではCCRTと手術の治療成績と治療後の嚥下機能の比較、さらにCCRT後の局所再発に対する救済手術について検討した。方法:対象はJapan Clinical Oncology Group (JCOG)に加盟している12施設において2005年4月から2007年3月までに治療をおこなった未治療中咽頭癌523症例。手術とCCRTの比較はMatched-Pair解析を用いた。1)側壁または前壁癌、2)扁平上皮癌、3)臨床病期IIIまたはIV(T4b除外)、4)遠隔転移無し、5)根治を目指した手術またはCCRT、といった条件を満たした症例の中から、手術群とCCRT群の背景因子(年齢、性別、亜部位、T分類、N分類)をマッチさせ、最終的に186症例で解析を行った。また、CCRT後の局所再発に対する救済手術の検討は、根治的にCCRTを行った170症例を対象とした。結果:5年無増悪生存率および5年局所制御率は手術群で51.0%および75.2%、CCRT群で54.4%および80.3%とほぼ同等の結果であった。しかし、T3-T4症例に限定した場合では5年無増悪生存率および5年局所制御率は手術群で37.6%および64.1%、CCRT群で50.2%および73.2%とCCRT群の方が優れた成績であった。さらに治療後の嚥下機能もCCRT群の方が有意に優れていた。また、CCRT後の局所再発は35例に生じ、その内の11例(31%)に救済手術を行った。救済治療を行えなかった背景因子として年齢と頸部再発の合併が考えられた。救済手術例の5年粗生存率は49.1%であった。結語:CCRTは手術と同等以上の治療成績であった。しかし、CCRT後の局所再発に対する救済手術の施行率は低かった。これらのことを念頭に置いて治療法の選択をする必要がある。