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精巣・前立腺

PSADはactive surveillance可能な前立腺癌の全摘後の再分類を予測するのに有用である

演  者:
井上 貴博
所属機関:
京都大学大学院医学研究科 泌尿器科

(目的)前立腺癌Low risk症例に対するactive surveillance(AS)は重要な治療方針のひとつだが、適応基準は明確ではない。一部の症例は経過中upstageないしupgrade(reclassification)して根治的治療が必要なことがある。本研究では前立腺全摘を施行したAS可能と思われる症例の病理標本を検討し、術後reclassificationとなりうる症例を術前に予測可能な因子を後ろ向きに解析することである。(対象と方法)術前ホルモン療法を施行していない前立腺全摘症例で 関西医科大学枚方病院で2005年1月から2011年12月までに施行した521例、京都大学病院で2005年1月から 2009年12月までに施行した217例である。 AS可能と判断する基準は、1)PSA≤10ng⁄ml、2)生検Gleason score≤6、3)cT stage≤T2、4)生検陽性コア数2本以下とした。術前因子として1) 年齢、2) 術前PSA、3) 臨床病期 (cT stage)、4) 生検Gleason score、5) PSAD、6)生検陽性本数、7) 生検陽性本数割合を用い、'reclassification'を予測しうる因子を多変量解析した。 (結果)関西医科大学枚方病院では521例中84例がAS可能で、41例(48.8%)がreclassificationされた。一方京都大学病院では217例中57例がAS可能で、26例(45.6%)がreclassificationされ、ほぼ同様な傾向であった。reclassificationを予測する術前因子として、多変量解析の結果、PSADが両施設とも統計学的に有用であった(p<0.006、およびp<0.03)。(考察)PSADは前立腺癌患者でAS可能と思われる症例のなかでGleason score≥7またはpT3を予測する有用な因子と考えられた。


MD-CT導入後の精巣がんstage1症例、surveillance policyの治療成績

演  者:
湯浅 健
所属機関:
公益財団法人 がん研究会有明病院 泌尿器科

【背景】精巣がんstage 1症例はリンパ節転移偽陰性症例があり、経過観察中に再発する症例がみられる。そのためリスクに応じた予防的抗がん化学療法が施行されてきた。当院では1999年にmulti-detector (MD)-CTが導入され、以降stage 1症例に対してはsurveillance policyを中心に治療を行ってきたので、治療成績について報告する。【対象と方法】当院にてMD-CTを導入した1999年以降に胚細胞癌と診断・化療された230人中、stage 1症例は97人。予防的化学療法を施行した5人を除き、surveillance をおこなった92症例を対象とした。10例は補助診断として、FDG-PET/CTを行った。【結果】症例の年齢中央値40歳(17歳から62歳)、セミノーマが54例、非セミノーマが32例、観察期間の中央値は45カ月であった。診断時の血清値はLDH中央値208IU/L(最大値1,115IU/L, 最小値119IU/L), 非セミノーマ症例ではAFP 4.4ng/mL (0.7 ng/mL, 2,477ng/mL), HCG 0.4IU/L未満 (1,300IU/L, 0.4IU/L未満)であった。セミノーマ5例 (9.3%), 非セミノーマ3例 (9.4%)、計8例 (9.3%)に再発を認め、高位精巣摘除後から再発までの期間は3か月から15カ月で中央値10カ月であった。セミノーマ症例では、腫瘍サイズ4cm以上、精巣網浸潤例で30例中4例 (13.3%)に再発を認めた。非セミノーマ症例では脈管浸潤例7例中2例 (23.6%)に再発を認めた。再発例も全例化学療法後にCRとなり、現在NEDである。FDG-PET/CTにて陰性であった10例については再発を認めていない。【結論】MD-CTやPET-CTを標準医療とする現在は、精巣がんstage 1に対してsurveillance policyによる観察・治療が推奨できる。


D'Amico分類中間リスク前立腺癌における全摘後の生物学的再発予測因子の検討

演  者:
成田 伸太郎
所属機関:
秋田大学大学院医学研究科 腎泌尿器科学講座

【背景】D′Amicoリスク分類は限局性前立腺癌の治療後の再発予測や治療方針決定に広く用いられている。今回、東北4施設の前立腺全摘患者のデータベースを基に、D′Amico中間リスク症例の生物学的再発に関与する術前因子を後ろ向きに検討した。【方法】2001年から2009年の間に東北大・弘前大・秋田大・宮城県立がんセンターで施行した術前内分泌療法未施行の前立腺全摘1268例を対象とした。PSA>0.2ng/mLを生物学的再発と定義し, 非再発生存率はKaplan-Meier法を用いて解析した。群間比較log-rank検定で行い、P<0.05を有意とした。【結果】D′Amicoリスク分類で低リスクが222例(17.5%), 高リスクが382例(30.1%)で残りの664例 (52.4%)が中間リスクであった。中間リスク群では平均観察期間41ヶ月で96例(14.5%)に生物学的再発が認められた。低リスクと中間リスクはlog-rank検定で非再発生存に有意差を認めなかった(P=0.122)が、中間リスクは高リスクより有意に再発率が低かった(P=0.001)。中間リスクにおいて生物学的再発の危険因子は生検時PSA(P<0.001)と治療年代(P=0.030)であり、年齢、Gleason score 4+3、臨床病期T2以上、%陽性コアは危険因子ではなかった。さらに、生検時PSA 15ng/mL以上の中間リスクはPSA15より小さい中間リスクに比べ有意に非再発生存期間が短く(P=0.008),逆に高リスク群と差が無かった(P=0.632)。【結論】多くの限局性前立腺癌リスク分類では生検時PSA20ng/mLを高リスクの境界としているが、本検討では15ng/mL以上も高リスクと同等の非再発生存率と考えられた。また、治療時期が非再発生存率に関与しており、中間リスクにおいて年代とともに治療成績が向上している可能性があると考えられた。D′Amicoの中間リスクは特に近年、低リスクと同程度の非再発生存率となって来ている。しかし、リスク分類の中で患者数が最も多く、中に高リスクの症例が含まれているため、リスク分類の再分類や他のリスク分類の妥当性を検討する必要がある。


限局性前立腺癌における治療法別PSA非再発生存期間の検討、過去10年間での治療成績

演  者:
高本 篤
所属機関:
岡山大学大学院医師薬総合研究科泌尿器病態学

(目的)前立腺がんの治療法を決める上で、治療による合併症や副作用だけでなく、治療後の再発の可能性を推測・評価することは重要である。当院における限局性前立腺がんの治療法別再発率をレトロスペクティブに検討した。(対象と方法) 1999年6月から2009年12月までに岡山大学病院にて手術療法、放射線療法、ホルモン療法がなされた限局性前立腺がん患者916名を対象とした。PSA再発の定義は、手術療法後では0.2 ng/mL以上の上昇、放射線療法後ではPSA最低値から2.0ng/mL以上の上昇、ホルモン療法後ではPSA値が最低値から25%以上の上昇、かつ上昇幅が2.0ng/mL以上とした。初期治療日からの期間をKaplan-Meier法で算出し、比例ハザードモデルにて解析した。(結果)限局性前立腺がん患者916例の年齢は47から106歳(中央値69歳)であり、グリソンスコア6;472例、7;321例、8;109例であった。PSA値は2.99から33 ng/mL(中央値7.96)であった。手術療法295件、放射線療法464件、ホルモン療法157件のうち、それぞれ32例、29例、23例にPSA再発を認め、5年非PSA再発率はそれぞれ83.8%、84.6%、77.2%であった。年齢、グリソンスコア、PSAを加えた多変量解析では、ホルモン療法にくらべ放射線療法において有意にPSA再発率が低かったが(p=0.0176)、手術療法では有意差を認めなかった(p=0.0842)。(結論)限局性前立腺がんの治療においてホルモン治療は放射線治療に比べ、PSA再発率が高かった。より長期な経過観察が必要である。


日本における前立腺癌永久挿入密封小線源治療の長期成績

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演  者:
矢木 康人
所属機関:
国立病院機構 東京医療センター 泌尿器科

【諸言】前立腺癌永久挿入密封小線源治療(BT)は、2003年当院において国内で先駆けて開始された。当初は低リスクの症例に対する治療であったが、現在では中間・高リスクの症例に対する有効性も報告されており、適応が拡大しつつある。当院でも2000例以上の症例をこの10年間で経験し、良好な治療成績が確認されている。【対象・方法】2003年9月から2008年4月までの期間、当院でBTを施行し5年以上経過観察が可能であった990例を対象に、Kaplan-Meir法を用いて全生存率、疾患特異的生存率、臨床的非再発率およびPSA非再発率を算出した。PSA再発はPhoenix定義(Nadir + 2ng/ml)を使用し、明らかなバウンス症例は除外した。有意差検定はLog rank検定およびCox比例ハザードモデルを使用した。リスク分類はNCCNのガイドラインに準じ、低リスクと中間リスクの一部(Gleason Score 3+4の症例のうち陽性コア率34%未満の症例)にはBT単独(処方線量144 or 160Gy)、中間・高リスクにはBT(処方線量100-110Gy)に外照射(45Gy)を併用した。術前内分泌治療は前立腺体積縮小目的および待機目的に行われたが、全例BT後に中止されている。【結果】観察期間の中央値は6.6年であった。全生存率は5年96.6%、9年91.8%、疾患特異的生存率は5年99.8%9年99.4%、臨床的非再発率は5年96.2%、9年92.4%であった。PSA非再発率は5年95.0%、9年90.6%であり、リスク別でみると低、中間、高リスクの順で5年98.5%、94.3%、86.5%、9年97.7%、88.7%、76.7%であった。単変量解析ではPSA (P<0.001)、Gleason Score (P<0.001)、臨床病期(P<0.001)、生検陽性コア率(P<0.001)、外照射の有無 (P=0.002)、Biologically Effective Dose: BED (P=0.010)にて有意差が認められ、多変量解析ではPSA (P=0.011)、Gleason Score(P<0.001)、臨床病期(P=0.001)が独立した再発予測因子であった。【結論】前立腺癌に対するBTの長期治療成績は良好であり、低リスクのみでなく、中間・高リスクにも選択されるべき治療法であることが明らかにされた。