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緩和・支持療法

がん化学療法に伴う貧血と輸血に関する全国調査研究

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演  者:
吉野 一郎
所属機関:
千葉大・院医・呼吸器病態外科学

背景と目的我が国におけるがん化学療法(化療)に伴う貧血(chemotherapy-induced anemia:CIA)とその指示療法である輸血の実態を明らかにするために、日本輸血・細胞治療学会と日本癌治療学会による全国アンケート調査が実施された。方法 65施設を対象に、2010年9月~2010年11月における8つのがん種(乳房、肺、胃、大腸・直腸、肝臓、婦人科系、泌尿器系、悪性リンパ腫)における化学療法、CIA、輸血の症例数を後方視的に調査し(一次調査)、さらに症例を無作為抽出し輸血前後の血液検査所見、輸血の有害事象等について調査した(二次調査)。結果 [一次調査]化学療法を施行された9,840例中、赤血球輸血は736例に4,323単位施行されていた(輸血率7.5%)。がん腫別輸血率は、乳癌1.6%、肺癌4.1%、胃癌9.7%、大腸・直腸癌3.5%、肝臓癌5.1%、婦人科系10.3%、泌尿器系9.0%、悪性リンパ腫7.3%であった。輸血を受けた患者一人あたりの輸血単位数は平均5.9で、がん腫別には悪性リンパ腫が最多(7.3)で肝臓癌が最少(3.9)だった。またHb10g/dl以下の年間CIA患者数は約17.2万人で、化学療法実施患者の40%と推測された。[二次調査]抽出された1596例のうち190例(11.9%)に輸血が施行されていた。化療前後の平均Hb値は11.6/10.4g/dlで、がん腫別には乳癌11.6/10.8g/dl、肺癌11.8/10.1g/dl、胃癌11.0/9.9g/dl、大腸・結腸癌12.0/11.3g/dl、婦人科系11.7/10.5g/dl、泌尿器系11.4/9.6g/dl、悪性リンパ腫11.1/9.6g/dlであった。輸血例では9.5/6.9g/dlで、がん腫別には乳癌9.5/6.5g/dl、肺癌10.4/7.6g/dl、胃癌9.9/7.4g/dl、大腸・結腸癌10.6/7.1g/dl、婦人科系9.5/7.4g/dl、泌尿器系9.4/7.2g/dl、悪性リンパ腫9.5/7.1g/dlであった。輸血実施率は化療後のHb値が低くなる程高くなり、8g/dl未満で56%(142/254例)、7g/dl未満で70%(94/134例)、6g/dl未満で73%(79/108例)であった。赤血球輸血の副作用は2.2%にみられた。輸血と関連のある因子として、化療および放射線療法の既往、プラチナ製剤の使用が示唆された。結語 我が国におけるCIAとその支持療法としての赤血球輸血の実態が初めて明らかにされ、年間赤血球輸血量は14.6万単位と推計された。CIAにおける輸血療法は適切かつ安全に施行されていることが示されたが、控え目に行われている実態も窺われた。患者ケア・医療倫理・血液資源の観点から、輸血以外の選択肢について議論が必要と考えられる。


PALO vs GRA for preventing CINV in HEC:A randomized,double-blind,phaseIII trial

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演  者:
Yuki Kogure
所属機関:
National Hospital Organization Shikoku Cancer Center, Japan

Background:
Standard antiemetic care for preventing chemotherapy-induced nausea and vomiting (CINV) due to highly emetogenic chemotherapy (HEC) is a combination of 5-HT3 receptor antagonist (RA), dexamethasone (DEX), and aprepitant (APR). This study compared the efficacy of two 5-HT3 RAs, palonosetron (PALO) and granisetron (GRA), in the triplet regimen.

Methods:
Patients with a malignant solid tumor who were receiving HEC containing 50 mg/m2 or more cisplatin (CDDP) were enrolled. They were randomly assigned to either Arm A (PALO 0.75 mg, i.v.) or Arm B (GRA 1 mg, i.v.), 30 min before chemotherapy on day 1, both arms with DEX (9.9 mg on day 1 and 6.6 mg on days 2-4, i.v.) and APR (125 mg on day 1 and 80 mg on days 2-3, p.o.). Primary endpoint was complete response (CR; defined as no emetic episodes and no rescue medications) in the overall (0-120 hours) phase. Secondary endpoints included CR in the acute (0-24 h) and delayed (24-120 h) phases, complete control (CC; no emetic episodes and no more than mild nausea) and total control (TC; no emetic episodes, no rescue medications, and no nausea). The planned sample size of 840 provided 90% power to detect a 10% improvement in the CR at 0-120 h with two-sided alpha of 0.05. Primary analysis was conducted with exact Cochran-Mantel-Haenszel (CMH) test.

Results:
Between July 2011 and June 2012, 842 patients were enrolled and 827 were evaluable. The median CDDP dose was 76.1 mg/m2 in Arm A and 75.7 mg/m2 in Arm B. Baseline factors were well-balanced. The overall CR rates were 66% in Arm A and 59% in Arm B (P=0.0539). In the delayed phase, Arm A exerted a significantly higher CR rate than Arm B (67% vs. 59%; P=0.0142). The overall TC rates were 48% in Arm A and 41% in Arm B(P=0.0369).

Conclusions:
Primary endpoint was not met. However, the overall study results have shown the clinical utility of PALO in the triplet regimen. PALO is a more preferable 5-HT3 RA in the triplet regimen than GRA for preventing CINV due to HEC.


Non-AC MECによるCINVに対するPalonosetron+Dexamethason day1単回投与の有効性の検討

演  者:
佐藤 康裕
所属機関:
北海道がんセンター

(背景)第二世代5HT3受容体拮抗薬であるPalonosetron(以下、Palo)は、中等度催吐性リスク化学療法(MEC)施行時のがん化学療法よる悪心・嘔吐(CINV)の予防として、MASCCやASCO、NCCNなどの国際的な制吐療法ガイドラインで推奨されている。しかし、併用が推奨されているステロイドの投与期間に関しては、第一世代5HT3受容体拮抗薬との併用時のdataを元に規定されており、Palo使用時の適正なステロイドの投与期間に関する報告は少なく、特にnon-AC MECに関しては、世界的に報告はない。本試験の目的は、non-AC MECによるCINVの予防の標準療法である、Palo + Dexamethasone(以下、Dex) day1-3投与に対する、Palo + Dex day 1単回投与の非劣性を確認することにある。(方法)本試験は多施設共同無作為化非盲検非劣性試験として行われた。初めてnon-AC MECが施行された症例を対象とし、登録された症例をPalo (0.75 mg, IV)とDex (9.9 mg, IV)を化学療法施行前に投与する群(PALO+DEX day1)と、day1は同様のレジメンで、day2-3にDex (8 mg, IV or PO)を投与する群(PALO+DEX day1-3)に最小化法によりランダムに振り分けた。主要評価項目は化学療法施行後5日間のcomplete response (CR; no emesis and no rescue antiemetics)とした。(結果)2011年4月から2013年3月までに登録された305例で解析を実施した。non-AC MECのレジメンとしては、オキサリプラチンベースが72.8%、イリノテカンベースが13.4%、カルボプラチンベースが12.1%、その他1.7%であった。全期CR率はPALO+DEX day1群(n=151)で68.2%、PALO+DEX day1-3群(n=154)で64.7%であり、非劣性が証明された。他、急性期CR率、遅発期CR率においても両群間に違いは認めなかった。(結語)本試験により、non-AC MEC施行時のCINVの予防における、PALO+DEX day1療法の、標準療法であるPALO+DEX day1-3に対する非劣性が証明された。non-AC MECのみを対象とした同様の研究はこれまで報告がなく、本試験の結果からPalo使用下におけるnon-AC MEC施行時のCINVの予防においては、day2-3のDexを省略出来ることが明らかとなった。


KM-CARTによる癌性腹水に対する積極的症状緩和と新たな治療戦略

演  者:
松崎 圭祐
所属機関:
要町病院 腹水治療センター

【目的】癌性腹膜炎に伴う大量の腹水は、強い腹部膨満感や呼吸苦などを生じて患者のADLを著しく低下させるだけでなく、オピオイドでは緩和が困難であり、抗癌治療の中止につながるために患者の生きる希望を奪ってしまう。難治性腹水治療法として1981年に腹水濾過濃縮再静注法(CART)が保険承認されているが、癌性腹水は早期の膜閉塞により処理困難なために全く普及していないのが現状である。我々は2009年から多量の癌性腹水に対応可能で、より簡便な改良型のKM-CARTシステムを考按し、積極的に施行している。腹水を最大27Lまで全量抜水してKM-CARTを行い、回収自己蛋白を血管内に点滴している。今回、KM-CARTの症状緩和効果を調査するとともに膜洗浄液から回収された多量の癌細胞がオーダーメイド治療に活用可能と考えられたので報告する。【方法・成績】2009年2月から2013年3月の間にKM-CARTを施行した症例は卵巣癌:155例、胃癌:109例、大腸癌:102例、その他:406例の計772例である。腹水は1.6~27.0L(平均6.8L)と可能な限り抜水し、所要時間は5~221分(平均64分)で、処理速度は平均9.8分/L、濾過濃縮液:100~2000ml(平均620ml)を作成し、点滴静注した。副作用は軽度の発熱程度で重篤な副作用は認めなかった。KM-CART前日並びに翌日にアンケート調査を行いえた87例では全例で腹部膨満感、呼吸苦、食欲不振、歩行障害など10項目の症状スコアが改善するとともに浮腫の軽減により下腿周囲長も平均2.8cm縮小し、患者のADL改善に有効であった。また闘病意欲の回復により化学療法を再開し、長期の在宅移行が可能となった症例を認めた。また卵巣癌等14例で濾過膜洗浄液から回収された癌細胞数はいずれも24万個以上であり、DCワクチン療法に利用可能であった。また培養翌日には多数の生細胞が生着、スフェロイド形成を認め、8日目には盛んな増殖を示していた。ワクチン継続投与できた大腸癌症例では42コースの化学療法後の大量腹水に対して、2週間ごとのKM-CARTとの併用で5か月間の在宅療養が可能であった。【結論】KM-CARTシステムは安全性が高く、大量の自己蛋白を回収することにより、自覚症状とともに全身状態、栄養、免疫状態の改善が期待でき、より良質な症状緩和につながるものと考えられた。また回収癌細胞が、薬剤感受性試験や免疫細胞療法に活用できるため、今後癌性腹水に対する新たな治療戦略へと発展するものと考えられる。


化学療法を施行する患者の口腔ケアに対するセルフケア支援の検討

演  者:
松丸 亜紀
所属機関:
市立函館病院

目的:当院では2011年度より、初回化学療法施行前から歯科口腔外科が介入して口腔ケアを行っており、2011年度の歯科口腔外科受診率は45%、口腔粘膜炎の発症が41%であった。口腔粘膜炎発症予防のため、2012年度よりPSに関わらず口腔外科受診後、患者のセルフケア支援を看護師が継続して行った。その後の口腔粘膜炎の発生状況の現状調査と今後の課題を検討した。対象:2011年~2013年に初回化学療法を施行した患者166名(2011年6月~2012年9月 78名、2012年10月~2013年3月88名)方法:看護介入施行前後の口腔外科受診率と口腔粘膜炎の発生率を比較検討した倫理的配慮として、後方的に患者個人の情報が特定されないように調査検討を行った口腔粘膜炎の評価方法はCTCAE Ver.4を使用した結果:セルフケア支援前後で、口腔外科の化学療法前受診率は45%から94%と向上、口腔粘膜炎は、全症例においては41%から9%、Grade2以上では21%から2%へと低下、カンジタの発症も9%から1%へと減少した。また、セルフケア支援前後共に口腔粘膜炎を発症した50%以上がフルオロウラシル及びカペシタビンを含むレジメンであった。考察:PSに関わらず患者のセルフケア支援を行うことで、口腔粘膜炎の発症が低下した。これは、化学療法前の口腔外科の受診率の向上に伴い、化学療法前に良好な口腔粘膜環境を整えることができたこと、セルフケアの支援を看護師が継続することで患者自身が口腔環境を維持するためのセルフケア能力を身に着けることができたことが、口腔粘膜炎の発症を減少させる一因となったと考えられる。また、フルオロウラシル及びカペシタビンを含むレジメンの口腔粘膜炎の発生率が高く、両者ともに長期に使用する薬剤であり、患者のQOLを著しく低下させる原因となるため、特に注意してケアを行っていく必要がある。現在外来化学療法が増加している中、自宅での患者や家族のセルフケア能力の維持を支えていくことが重要課題と考えた。まとめ:化学療法を施行する患者に対し、口腔粘膜炎に対するセルフケア支援を行うことで、QOLを保持しながら治療を継続していくことが可能である。