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食道

FDG-PETによる食道癌治療方針決定の可能性

演  者:
中島 政信
所属機関:
獨協医大 一外

【目的】FDG-PETが癌の治療方針決定のためのツールとして有用か否かの評価は未定である。食道癌症例を対象とし、治療法の決定におけるFDG-PETの有用性について検討した。【対象】2009年からの3年間に当科で治療を行った食道癌は272例で、外科的または内視鏡的切除が156例に行われた。そのうち治療前にFGD-PETを行った125例を検討し、根治的CRTを行った41例についても検討を行った。【方法】1.切除例125例の進行度別のSUV Maxを測定し、治療方針決定の可否を検討。2.術前化学療法(NAC)症例34例を対象とし、NAC前後のSUV Maxを比較して治療効果判定を検討。3.根治的CRT症例41例の治療前後のSUV Maxを測定し、治療効果判定における有用性を検討した。【結果】1.平均SUV MaxはpT1a(n=19);1.53, pT1b(n=33);4.07, pT2(n=10);10.24, pT3(n=53);11.02、pT4(n=10);14.20 (p<0.05)。内視鏡治療の適応であるpT1a-EP, LPMは11例で、うち10例で集積(-)であった。集積を認めた1例は全周性表層拡大型病変であった。pT3とpT4の間に有意差はなく、切除の可否の判定は困難であった。2.NAC症例におけるNAC前の平均SUV Maxは16.51、NAC後は8.22 で、減少率は50.3%であった。組織学的効果判定はGrade0;3例、1a;23例、1b;5例、3;3例。SUV減少率50%を基準として組織学的効果との相関を調べると、減少率50%以上の群は全例Grade1b以上の奏効であった。Grade3症例のNAC後の平均SUV Maxは1.43であり、その他の平均7.08より低値であった(p<0.05)。組織学的効果予測におけるSUV Max減少率とNAC後SUV値では、後者の方が有用であった。3.根治的CRT症例41例の治療前SUV Maxは11.21、治療後は2.72であった。治療効果はPD3例、SD4例、PR12例、CR22例で、CR率は53.6%であった。SUV Max減少率はCR例が平均78.1%で、その他の平均48%と比較して有意に大であった(p<0.05)。CR症例の治療後SUV Maxは平均1.65であり、その他の平均4.37よりも低値であった(p<0.05)。CRTの治療効果判定でも、治療後SUV Maxがより鋭敏にCRを見いだせた。【結語】内視鏡的切除の適応決定に、SUV Maxが指標となりうる。またNAC症例における組織学的効果予測因子としてNAC後SUV Maxは有用な指標であり、responderに対する個別化治療につながる可能性がある。さらに根治的CRT 後のSUV MaxもCR判定に有用で、Salvage 手術等の追加治療を検討する重要な指標になると思われる。


食道癌術前化学療法中に進行するSarcopeniaと体重減少―術後感染性合併症へ与える影響

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演  者:
林 勉
所属機関:
東海大学 消化器外科

はじめに)食道癌術前化学療法中は、狭窄や消化器毒性による経口摂取量の減少から栄養障害を伴う。さらに進行食道癌においては、癌悪液質を背景にSarcopeniaが進行し、代謝障害と体蛋白喪失を伴う栄養障害を来たすことが示唆されている。いずれも化学療法後の食道切除術において術後合併症のリスクとして懸念されるが、両者の病態が術後短期成績に与える影響は明らかではない。体重減少とSarcopeniaが術後感染性合併症発生へ与える影響を腸腰筋断面積による筋肉量の評価を用いて検討する。対象)2010年1月から2013年4月までに胸部食道癌cStageII/IIIで術前化学療法を実施後に食道切除術がなされた66例。方法)腹部CT検査で第4腰椎レベルにおける腸腰筋断面積(CSA)を測定し、化学療法前後の体重および腸腰筋断面積の減少率{(治療後値)-(治療前値)/治療前値*100%}を算出し、体重減少率(%BW)およびCSA減少率(%CSA)のcut-off値を5%として両因子および背景因子(年齢、治療開始時BMI、alb値、嚥下障害の有無、消化器毒性の有無)が術後感染性合併症(Clavien-Dindo分類Grade2以上)へ与える影響を検討した。結果)背景因子;年齢(以下中央値):66歳、alb値:4.00mg/dl、BMI;21kg/m2、嚥下障害あり/なし:17/49、消化器毒性あり/なし:38/28であった。体重減少率および腸腰筋断面積変化率の中央値は%BW:2.0%、%CSA:3.0%、であった。感染性合併症は30例(発生率45%)に発生し、感染性合併症発生をアウトカムとした単変量解析におけるodds比は年齢(70歳以上):1.737(p=0.421)、BMI(18.5以下):0.455(p=0.253)、alb(3.5以下):0.296(p=0.166)、嚥下障害あり:1.500(p=0.575)、消化器毒性:0.727(p=0.619)、%BW(5%以上):4.375(p=0.015)、%CSA(5%以上):6.045(p=0.001)で、単変量解析では%BW>5%と%CSA>5%が有意な感染性合併症発生リスク因子であった。%BWおよび%CSAを変数とした多変量解析では、それぞれodds比は%BW:3.387(p=0.049)、%CSA:5.100(p=0.004)であり、いずれも独立したリスク因子で、%CSAがより強いリスク因子であった。結論)体重減少およびSarcopeniaはいずれも感染性合併症へ影響を与えるが、Sarcopeniaがより強い影響を有する。


食道扁平上皮癌に対する新規PPARγ agonistの抗腫瘍効果、機序に関する検討

演  者:
澤山 浩
所属機関:
熊本大学 医学部

【背景と目的】PPARγ は、主に脂肪組織に分布し脂肪の分化に関わる転写因子である。PPARγ agonistは、PPARγに結合し標的遺伝子の転写を促進する化合物であり、糖尿病治療薬として有名である。近年PPARγ agonistの抗腫瘍効果が報告されたが、新規第3世代PPARγ agonistであるEfatutazoneは、抗腫瘍効果に特化して開発され、その高い抗腫瘍効果から、大腸癌、肺小細胞癌に対し臨床試験が行われている。しかしながら、PPARγの発現は臓器特異的で、食道扁平上皮癌における発現・機能、およびPPARγ agonistの抗腫瘍効果・作用機序に関して不明な点が多い。本研究では、食道扁平上皮癌におけるPPARγの発現意義を明らかにし、Efatutazoneの抗腫瘍効果、作用機序を解明した。【方法】食道扁平上皮癌根治切除145例の切除標本に対し、PPARγ、Ki-67の免疫染色を施行した。食道扁平上皮癌細胞株を用いて、in vitroおよびin vivoにて、Efatutazoneの抗腫瘍効果、作用機序を、Western blotting法、Real time RT-PCR法、免疫染色、共焦点顕微鏡を用い評価した。解析結果に基づき、MK-2206、U0126およびCetuximabとの併用療法を検討した。【結果】PPARγは、正常食道扁平上皮において有棘層に発現を認めたが、食道扁平上皮癌において、その発現は低下した。PPARγの発現は、Ki-67の発現と逆相関を示し、PPARγ高発現症例は予後良好であった。食道扁平上皮癌細胞株に対しEfatutazoneは、in vitroおよびin vivoにて増殖抑制効果を示した。Efatutazone投与後、p-AKT Ser473、p-p21 Thr145の脱リン酸化により、核内のp21蛋白が上昇することで、抗腫瘍効果を示すことを明らかにした。Efatutazoneは、PI3K-AKT pathwayを抑制することからEGFRシグナルの下流を検索したところ、EGFR、MAPKが活性化されていた。そこで、分子標的療法薬との併用を検討したところ、EfatutazoneはCetuximabとの併用にて、増殖シグナルであるPI3K-AKT pathwayおよびMAPK pathwayを強力に抑制し、高い相乗効果を示した。【結論】食道扁平上皮癌においてPPARγは、癌抑制的に作用している可能性を示した。食道扁平上皮癌細胞株に対するEfatutazoneのAKTを介した抗腫瘍効果、およびCetuximabとの併用効果を明らかにした。本研究より、食道扁平上皮癌に対する、Efatutazone単剤、およびCetuximab併用療法の有用性が示唆された。


T4/M1LYM食道癌に対するDCF併用化学放射線療法(DCF-R)の臨床第II相試験(KDOG 0501-P2)

演  者:
樋口 勝彦
所属機関:
北里大学東病院 消化器内科

【目的】他臓器浸潤(T4)や遠隔リンパ節転移(M1 LYM)を伴う食道癌は手術成績が不良であり、5-FU/Cisplatin(CDDP)による化学放射線療法(FP-R)が標準治療と考えられている。しかし、CR率は15-33%、MSTは9-13.6月と報告されており、治療成績の向上には新たなレジメンの開発が必要である。Docetaxel(DTX)は優れた放射線増感作用を有している。我々はUICC-TNM 6thのT4またはM1 LYMを有する食道癌を対象にDTX/CDDP/5-FU・放射線同時併用療法(DCF-R)の第I相臨床試験を行い、推奨用量を検討した(Radiother Oncol 87:398-404,2008)。その後、有効性と安全性を評価する目的で臨床第II相試験を行った。primary endpointはclinical CR割合、secondary endopointsは抗腫瘍効果、有害事象発現割合、無増悪生存期間、全生存期間とした。【対象】2006年5月から2012年4月までにT4または放射線照射可能なM1 LYMと診断された胸部食道癌患者でM1 LYM以外の遠隔転移がなく、前治療歴のない42例が登録された。患者背景は男/女:36/6例、年齢中央値62歳(46-75歳)、PS 0/1/2:14/25/3、TNM分類 T4M0/non-T4M1LYM/T4M1LYM:20/12/10であった。【方法】放射線照射(1.8Gy/day,28-34回,計50.4-61.2Gy)と同時にDTX(Day1)/CDDP(Day1) /5-FU(Day1-5): 20-40/40/400mg/m2を2週毎に点滴静注した。当初、放射線総量は61.2Gyであったが、食道炎や心肺の晩期毒性を軽減する目的で、途中から多門照射50.4Gyに改変した。それに伴い放射線期間中のDCFを4 cycleから3 cycleに改変した。DCF-R後はDTX(Day1)/CDDP(Day1)/5-FU(Day1-5): 40/60/600mg/m2を4週毎に2 cycle投与することが推奨された。【成績】予定放射線総量は61.2Gy /50.4Gy:12/30例であった。CR割合は全体で52.4%(22/42, 95% CI:37.3-67.5%)と良好であり、61.2Gy群33.3%(4/12)、50.4Gy群60%(18/30)であった。Grade 3以上の主な有害事象は白血球減少(71.4%)、好中球減少(57.1%)、貧血(16.7%)、発熱性好中球減少症(38.1%)、食道炎(28.6%)、食欲不振(31.0%)であった。Grade 3以上の晩期毒性として心嚢液貯留1例、食道炎3例、胸部大動脈瘤1例に認めた。2013年1月時点での無増悪生存期間中央値は11.1月(95% CI: 6.9-15.3 月)、生存期間中央値は23.1 月(95% CI: 5.6-40.6月)であった。【結論】DCF-Rは血液毒性、発熱性好中球減少症などの有害事象が強いものの、優れたCR割合が示され、T4/M1LYM食道癌に対する有望な治療法と考えられた。


進行食道癌における末梢血中遊離癌細胞の検討

演  者:
松下 大輔
所属機関:
鹿児島大学 消化器・乳腺甲状腺外科

進行食道癌は遠隔転移を伴う切除不能と診断される症例も多く、根治的切除を施行しても再発を来すことも稀ではない。切除不能例においては化学放射線療法(CRT :Chemo-radiation therapy)が主体であり,根治的切除が可能と判断されても術前化学放射線療法(Neo adjuvant chemo-radiation therapy:NACRT)も広く検討されている。このような対象となる進行食道癌では血中遊離癌細胞(Circulating Tumor Cell: CTC)の存在が以前から報告されており、分子生物学的手法を用いた検討が行われてきた。【目的】CTCを形態学的に検出が可能であるCellsearch system(CSS)を用い、食道癌の予後予測・治療効果判定の可能性について検討した。【対象・方法】SCC細胞株(KYSE270,KYSE220,KYSE50,TE8,TE9)と2011年以降に当科で治療を行った進行食道癌82例(NACRT:34例、切除不能:48例)を対象とした。CSSは磁気ビーズ標識の抗EpCAM抗体による分離後にPan-cytokeratin・DAPIによる蛍光免疫染色を行い、CD45染色により白血球を除外することでCTCを評価する。SCC細胞株では希釈系列によるCSSの検出能を評価した。CTCは当科での初回治療開始前に静脈血7.5mlを採取し評価した。加療後にCTCを再検しえた49例で画像診断による治療効果判定との比較を行った。【結果】SCC 細胞株5種で同等の検出が可能であり、希釈系列にても直線性は保たれCTCの量的評価が可能であった。CTCの検出率は全体で22.0%(18/82)であり、臨床病理学的因子ではCTC発現と遠隔転移の有無において有意な相関が認められた。また、Kaplan-Meier法による生存曲線の比較において、CTC陽性群が有意に予後不良であった。加療前後でCTCを評価し得た49例では、画像効果判定PRでCTCが増加しなかった症例は95.2%(20/21)、PDでCTCが減少しなかった症例は80%(16/20)であり、全体として89.8%(44/49)で画像効果判定とCTC変化が一致した。更に、加療後にCTCが陰性化した7例では加療前にCTC陰性であった症例とほぼ同等まで予後の改善が認められた。【結語】食道癌細胞株および臨床検体においてCSSを用いたCTC評価が可能であった。CTCが進行食道癌の予後予測・治療効果判定に有用となる可能性が示唆された。


食道扁平上皮癌に対する同時化学療法併用陽子線治療の初期成績

演  者:
石川 仁
所属機関:
筑波大学 医学医療系

【背景】食道癌に対する化学放射線治療後の心臓や肺の晩期有害事象が懸念されている。陽子線はX線に比較して線量集中性が良好であるため、これらの有害事象を軽減することが期待される。そこで、食道癌症例に対する化学療法を同時併用した陽子線治療の初期成績を報告する。【方法】対象は2008年11月から2012年6月までにCDDPと5-FUによる同時化学療法併用陽子線治療を施行した食道扁平上皮癌28例とした。対象の内訳は男性26例,女性2例で年齢の中央値は69歳(52-79歳)であった。原発巣の主占拠部位はCe/Ut/Mt/Ltがそれぞれ2/9/13/4例であり、腫瘍長径の中央値は53mm(10-120mm)であった。TNM分類(UICC)ではT1/T2/T3/T4が11/7/7/3例、N0/N1/N2/N3が15/9/3/1例で、臨床病期はStageI/II/IIIが12/8/8例であった。治療開始前に内視鏡下で腫瘍の口側と肛門側に金属マーカーの挿入を行い照射範囲設定の参考とした。照射範囲はN0症例では腫瘍の上下3-4cmの範囲の食道とその範囲内の縦隔リンパ節としたが、N(+)症例では主病巣の局在に応じた領域リンパ節も含めた。陽子線治療は1回2GyEの通常分割照射で行い、総線量は原則として60Gy/30Frとした。また、50Gy時の内視鏡による評価で腫瘍の残存が明らかであった12例では6-10Gyの追加照射を施行した。化学療法はCDDP (70mg/m2 day1,29)と5-FU (700mg/m2、day1-4,29-32)を基本とした。【成績】全例で陽子線治療を予定通り完遂できた.化学療法は1例を除いた27例(96%)で照射期間中に2コース投与が可能であった.照射終了1-2か月後の初期効果判定では、CRが21例(75%)、PRが6例(21%)、SDは1例(4%)であった。観察期間の中央値は21か月(7-54か月)であった。これまでに、10例に再発が認められ、再発部位の内訳は局所のみが5例、局所+リンパ節が1例、リンパ節のみが1例、遠隔転移が3例であった。最終観察時点で20例が生存、8例は死亡(7例が原病死、1例は他癌死)し、2年原病生存率は73%であった。急性期有害事象はGrade 3以上の食道炎と血液毒性をそれぞれ7例(25%)で認めた。一方、晩期有害事象は食道狭窄と食道潰瘍をそれぞれ1例に認めたものの、Grade 2以上の心肺毒性は認めなかった。【結論】症例数は少ないものの、食道癌に対する同時化学療法を併用した陽子線治療は安全に施行でき、通常のX線治療と比較して心・肺毒性の少ない有望な化学放射線療法であることが示唆された。