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腎・尿路・膀胱

腎細胞癌術後の早期・晩期再発に対する臨床病理学的検討

演  者:
藤井 陽一
所属機関:
虎の門病院 泌尿器科

【目的】腎細胞癌に対する標準治療は根治的腎摘除術あるいは腎部分切除術であるが、術後の20-40%に再発・転移が生じると報告されている。多くは5年以内の早期再発であるが、約10%程度は5年以上経過してからの晩期再発である。また、晩期再発が腎細胞癌の生物学的特徴であるとも言われている。今回我々は、腎細胞癌術後の早期および晩期再発における臨床病理学的特徴について検討をした。
【対象と方法】1988年4月から2013年1月までに504例の腎細胞癌に対して根治的腎摘除術または腎部分切除術が施行された。術前診断時に遠隔転移を認めた18例を除外した486例を対象とした。術後5年以内を早期再発、5年以上経過したものを晩期再発と定義した。早期・晩期再発それぞれのリスク因子(年齢、性別、初発症状の有無、PS, 術式、pT stage, リンパ節転移の有無, 異型度, 脈管浸潤の有無, 組織型)についてロジスティック回帰分析を用いて解析した。また、再発後からの癌特異的生存率についてはKaplan-Meier法を用いて解析した。
【結果】486例中、無再発391例(80.5%)、早期再発77例(15.8%)、晩期再発18例(3.7%)であった。手術時年齢中央値は早期再発群で62歳、晩期再発群で68歳(P=0.097)であり、観察期間中央値はそれぞれ48.4か月(0.5-154.7か月)、105.9か月(65.0-297.9か月)(P<0.0001)であった。Pathological stageは早期再発群で、pT1:15例、pT2:13例、pT3:39例、pT4:10例であり、晩期再発群でpT1:8例、pT2:5例、pT3:5例、pT4:0例であった(P=0.001)。ロジスティック回帰分析では、早期再発群においては初発症状の有無、pT stage、脈管浸潤有無、異型度が、晩期再発群では、年齢とpT stageが有意なリスク因子となった。また、再発後からの5年癌特異的生存率は早期再発群52.9%、晩期再発群72.4%(P=0.044)であった。
【結論】腎細胞癌術後の再発様式によりリスク因子は異なるが、特に晩期再発では年齢とpT stageが重要なリスク因子として考えられた。晩期再発の頻度は低いが、より多くの腎がん手術症例数について層別化して解析することによって予後予測が可能となり、治療法選択に寄与する可能性が示唆された。


DNAマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析による淡明細胞型腎細胞癌の予後分類

演  者:
柳田 知彦
所属機関:
福島県立医科大学 泌尿器科

<背景と目的>DNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析では,癌の臨床病理情報とは異なる有益な知見を得る事ができる.一般的にDNA マイクロアレイでは,in vitro transcriptionにより増幅したRNAを対象とすることが多い.一方,RNA増幅を行わない我々のマイクロアレイシステムでは,amplification biasが少ないために本来の発現強度に近い情報が得られることから,様々なマーカー遺伝子の探索に適していると考えられる.今回我々は,独自開発DNAマイクロアレイシステムを用いて,淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)の予後関連遺伝子セットを探索した.<対象と方法>2008年から2013年に当科および関連病院での手術により得られたccRCC 52サンプルと正常腎組織 32サンプルを対象とした(ccRCCのステージ1/2/3/4:29/4/7/12).採取した組織は速やかに液体窒素で冷却後にpoly (A)+RNAを抽出し,増幅行程を行わずに31,797 transcriptsを対象としたDNAマイクロアレイ解析を行った.発現情報のクラスター解析はユークリッド平方距離を用いた群平均法で行い,生存率解析にはKaplan-Meier法によるlog-rank検定を,多変量解析にはcox比例ハザードモデルを用いた.<結果>全発現情報から,サンプル間の発現強度差を指標として3,125 transcrptsを抽出してクラスター解析を行うと,正常腎とccRCCのクラスターに分かれた.さらにccRCCのクラスターは,12および40サンプルからなる2つのクラスターに分類された.条件を厳しくして3,125 transcriptsから456を抽出し,最終的に31 transcriptsまで絞り込んでクラスター解析を行うと,1例増えて13サンプルのCluster A (CA) と,39サンプルのCluster B (CB) に分類された.CAはhigh grade,high stageを多く含み,短期間で癌死した症例が多く,この2群間で癌特異的生存率を比較するとCAが有意に予後不良であった(P<0.001).さらに,この31遺伝子での分類,ステージ,グレードの3項目で多変量解析を行うと,31遺伝子での分類のみ有意差を認め(p=0.008),独立した予後予測因子であった.この遺伝子セットを,従来法のマイクロアレイでの報告にある予後関連遺伝子セットと比較すると,重複がない新規のものであった.<結論>本研究で得られた31遺伝子は新規のccRCC予後関連遺伝子セットで,臨床病理所見とは異なる予後情報が得られる有用なツールと考えられる.


上部尿路癌から膀胱への腫瘍細胞播種に関する検討

演  者:
伊藤 明宏
所属機関:
東北大院 泌尿器科

【目的】上部尿路癌の術後膀胱再発に対する予防的治療を目的として、術直後のTHP単回膀注の有効性を評価する多施設共同無作為比較試験THPMG Trailの結果、THP膀注の有効性を示す結果が得られた(J Clin Oncol 31:1422-1427.2013)。今回、更なる解析を行い、上部尿路癌から膀胱への腫瘍細胞播種とTHPの抗腫瘍効果について検討を行った。【対象と方法】2005年12月から2008年11月までに、東北大学および関連施設において上部尿路癌と診断され、遠隔転移なく根治切除の期待できる症例を対象。膀胱腫瘍の既往や同時発生例を除外。術前にTHP注入群(N=39)と非注入群(N=38)に無作為に割り付けを行い、腎尿管全摘後48時間以内にTHPを膀注。術後3ヶ月毎に膀胱鏡検査を行った。今回の検討では、非注入群における種々の因子の膀胱再発への影響や、膀胱再発症例の膀胱再発部位を解析し、上部尿路癌から膀胱への腫瘍細胞播種について検討した。【結果】非注入群においては、尿細胞診陽性が膀胱再発に有意に影響する因子であった(HR 5.54, 95%CI:1.12-27.5, p=0.036)。また、尿細胞診陽性例の膀胱再発はTHP注入により有意に抑制されており(Log rank p=0.0001)、尿細胞診陽性例における膀胱再発に影響する因子の多変量解析でも、THP注入が膀胱再発を有意に抑制する因子であった(HR 0.02, 95%CI:0.00-0.53 p=0.018)。一方、膀胱での再発部位は、膀胱カフ切除部周囲と尿道カテーテルのバルーンが接触している膀胱頸部が多く、約8割の症例がこの部位での再発であった。【考案】手術操作や尿道カテーテル留置によって損傷された膀胱上皮には、腫瘍細胞が接着しやすくなることが知られている。膀胱内に癌細胞が浮遊していても術前には膀胱癌が形成されなかった尿細胞診陽性例では、手術操作やカテーテルにて損傷を受けた膀胱上皮に癌細胞が接着することで、術後に膀胱再発を引き起こすものと考えられる。【結論】術直後のTHP膀胱内注入療法は、術後の浮遊細胞に対する抗腫瘍効果を発揮することで、膀胱再発予防として合理的な治療法と考えられる。THP注入による膀胱内再発予防治療を確立するためには、大規模での第3相試験が必要と考えられ、また、それにより膀胱再発メカニズムの詳細な解析が可能になるものと期待される。


GC療法抵抗性尿路上皮癌に対するGemcitabine-Docetaxel-Carboplatin(GDC)療法の検討

演  者:
深津 顕俊
所属機関:
小牧市民病院 泌尿器科

【目的】近年、進行性尿路上皮癌に対するfirst lineの化学療法としてgemcitabine-cisplatin (GC) 療法が標準的となりつつあるが、GC療法抵抗性尿路上皮癌に対するsecond lineの治療法は確立されていない。今回我々は、GC療法抵抗性尿路上皮癌に対するgemcitabine-docetaxel-carboplatin (GDC)療法の有効性と安全性について検討した。【対象と方法】2009年2月から2012年12月までの間に進行性尿路上皮癌に対してGC療法を施行した151例中、抵抗性を示しGDC療法を施行した25例(男性23例・女性2例、平均年齢69.3歳)を対象とした。gemcitabine 750 mg/m2をday 1およびday 8、docetaxel 50 mg/m2とcarboplatin AUC 5をday 1に投与した。21日を1クールとし、病状の進行を認めた場合や有害事象が忍容できなくなった場合、治療を終了した。【結果】平均投与回数は3.1回(1-6)、観察期間の中央値は8.2ヶ月(1.9-18.5)あった。CRを認めなかったが、PRを13例(52.0%)に認めた。無増悪期間の中央値は6.7 ヶ月(1年無増悪生存率39.5%)、全生存期間の中央値は12.9ヶ月(1年全生存率55.6%)であった。Grade 3以上の有害事象を18例(72.0%)に認め、その内訳は白血球減少9例(36.0%)、貧血6例(24.0%)、血小板減少15例(60.0%)、食欲不振7例(28.0%)、悪心嘔吐6例(24.0%)、下痢4例(16.0%)であった。【結論】GDC療法はGC療法再燃後であっても有効な場合があり、GC抵抗性尿路上皮癌に対する治療法の選択肢となり得た。


腎細胞がん患者でのスニチニブの血中濃度モニタリングに基づく副作用評価

演  者:
野田 哲史
所属機関:
滋賀医大病 薬剤部

【目的】スニチニブは進行性腎細胞がんで承認された分子標的抗がん薬であるが、用量制限毒性となる重篤な有害事象のために標準投与量での継続が困難となり、減量/中止を余儀なくされる場合が多い。動物実験では血中総スニチニブ濃度(スニチニブと活性代謝物であるSU12662の総和)が50-100 ng/mLにおいてVEGFR-2およびPDGFR-βのリン酸化が阻害されることが知られている。また海外の臨床試験では、総スニチニブ濃度が100 ng/mLを超えた症例で用量制限毒性が多く認められたと報告されている。そこで本研究では、日本人でのスニチニブの至適濃度を探索するため、スニチニブの血中濃度と副作用発現の頻度/重篤度および治療成功期間(TTF)の関連性について解析した。【方法】2010年9月から2013年3月までの間で、滋賀医大病院および滋賀県立成人病センターにおいて、スニチニブを投与され、血中濃度測定の同意を得た腎細胞がん患者21名を対象とした。スニチニブおよびSU12662の血中濃度は高速液体クロマトグラフィーで測定した。スニチニブによる副作用はCTCAE v.4により評価した。【結果】総スニチニブ濃度と血小板数は、有意な負の相関を示した(r= -0.48)。しかし、総スニチニブ濃度と赤血球数および白血球数に相関性は認められなかった。また食欲不振、倦怠感および出血イベントが発現した患者の総スニチニブ濃度は、これらの副作用のなかった患者と比較して有意に高値であった。一方、総スニチニブ濃度と手足症候群、高血圧の発現に関連性は認められなかった。総スニチニブ濃度が100 ng/mL以下の患者ではTTFの中央値は686日であり、100 ng/mL以上の患者の71日と比較して有意に長かった。【結論】総スニチニブ濃度が高値であると副作用発現のリスクが高まり、特に100 ng/mLを超えた場合、スニチニブの継続は困難となることが示された。したがって、スニチニブの血中濃度モニタリングに基づき投与設計をおこなうことは、副作用を回避してTTFの延長につながる可能性が示唆された。


sorafenib関連手足皮膚反応に対する高すべり性スキンケアパッドの有用性の検討

演  者:
篠原 信雄
所属機関:
北海道大学大学院医学研究科 腎泌尿器外科

【背景・目的】手足皮膚反応(HFSR)はsorafenibを含むVEGFチロシンキナーゼ阻害剤投与例で、頻度が高く治療の継続に対し大きな問題となる有害事象である。我々は、HFSRと褥創の類似性に着目して、褥創処置材である高すべり性スキンケアパッド(商品名:リモイスパッド)がHFSRに有効ではないかと考えた。高すべり性スキンケアパッドのHFSRに対する有用性を明らかにするため、HFSRを有する患者に標準的に用いられている尿素クリームの処置と比較するランダム化第2相試験を実施した。【方法】Sorafenibを服用中の有転移腎細胞癌患者で、足底にHFSR Grade 1 を発現した患者を対象とした。sorafenib以外の分子標的療法剤の投与を受けた既往を有する例やHFSR以外でGrade 3以上の有害事象を有する例は除外した。対象患者は高すべり性スキンケアパッド群(Arm 1)と10%尿素クリーム群(Arm 2)に無作為に割り付けられ、足底のHFSRに対しいずれかの処置が実施された。研究期間は処置開始後28日間とした。primary endpointは 足底に起こるGrade 2,3のHFSRの発現割合(HFSR移行割合)、secondary endpointは足底HFSR Grade 2,3発現までの期間、Visual analogue scale (VAS)を用いた患者自身による足底の痛み、研究期間におけるSorafenibの比較薬剤強度(RDI)とした。【結果】2009年12月から2012年3月までに36人が登録されたが、不適格症例等の除外により有効性の解析対象は33名(Arm 1: 17名、Arm 2: 16名)であった。これら2群間で患者背景に差は認めなかった。足底の HFSR Grade 2,3への移行割合はArm 1で29%(17例中5例)、Arm 2で69%(16例中11例)であり、Arm 1で有意に低かった(p=0.03)。一方、処置を行わなかった手掌では両Arm間で有意差を認めなかった (P = 0.58)。足底HFSR Grade 2,3発現までの期間(中央値)についてはArm 1で到達せず(95%CI 13-28+)、Arm 2で22日(95%CI 15-27)であり、Arm 1で有意に長かった(p=0.03)。研究期間におけるSorafenibのRDIはArm 1 82 %、Arm 2 73 %であったが、有意差はなかった。処置別に「過去7日間平均の痛み」を評価したが、処置後28日目の段階でArm 1の方がArm 2より低い傾向が示された(P = 0.05)。【結語】sorafenib投与に伴って起こるHFSR に対し、高すべり性スキンケアパッドは有用であることが明らかになった。本研究は、HFSR発症例に対する処置法をランダム化試験で明確にした世界で初めての研究である。


筋層浸潤性膀胱癌に対する術前MVAC療法の第3相試験:JCOG0209

演  者:
藤本 清秀
所属機関:
奈良県立医大・医・泌尿器科学

【目的】筋層浸潤性膀胱癌(MIBC)の予後改善を目的とした術前MVAC療法+膀胱全摘除術(NAC群)の有効性と安全性を、膀胱全摘除術単独療法(RC群)とのランダム化比較試験により評価した。【対象と方法】対象は20-75歳のMIBC(T2-4aN0M0)患者。MVAC療法はメソトレキセート30 mg/m2(day1、15、22)、ビンブラスチン3 mg/m2(day2、15、22)、ドキソルビシン30 mg/m2(day2)、シスプラチン70 mg/m2(day2)を4週1コースとして2コース繰り返した。Primary endpointは全生存期間、secondary endpointsは無増悪生存期間、手術合併症発生割合、術前MVAC療法の有害事象発生割合、病理学的腫瘍非残存割合(pT0割合)、QOLとした。割付調整因子は施設と臨床病期で、予定登録数は片側alpha=0.05、検出力80%の設定でRC群の5年全生存割合45%に対してNAC群が57%を上回るか検証するために各群180例とした。【結果】2003年3月に登録開始したが、登録数が予定を下回り2009年3月にRC群66例、NAC群64例で登録中止となった(28施設)。事前計画による登録中止後の第2回中間解析では5年全生存割合はRC群62.4%、NAC群72.3%で統計学的有意差はなかった(ハザード比0.65、多重性調整99.9%CI 0.19-2.18、層別ログランク片側p値0.07)。しかし、日常診療でゲムシタビン+シスプラチン療法が既にみなし標準となっており効果・安全性評価委員会より結果の早期公表を勧告された。5年無増悪生存割合はRC群56.4%、NAC群69.1%であった(片側p=0.04)。有害事象は、RC群で術後リンパ瘻が多く(RC群12.3% vs. NAC群1.7%)、NAC群では縫合不全が多かった(RC群1.5% vs. NAC群12.1%)。術前MVAC療法中の有害事象(G3以上)は、好中球減少(87.3%)、食欲不振(28.6%)、悪心(21.4%)、発熱性好中球減少(17.9%)、貧血(14.3%)の順に多くみられた。pT0割合は、RC群の9.4%に対し、NAC群では34.4%と高かった(p=0.001)。【結論】MIBCに対するMVAC療法による術前化学療法が有望であることが示された。


新規腎癌関連抗原galectin 9およびPINCH

演  者:
川嶋 秀紀
所属機関:
大阪市立大学大学院医学研究科 泌尿器病態学

[目的] 数少ないIFN療法著効症例の免疫メカニズムを解析し一般化する事で、腎癌に対する特異的免疫療法の開発に繋げる。[方法] 淡明細胞癌の発現ライブラリーからIFN著効例血清と反応する蛋白を探索し、得られた腎癌特異的蛋白のアミノ酸配列由来のペプチドを用いて健常人PBMC(末梢血単核球)を刺激した。[結果] 200万個のプラークをスクリーニングし15個の陽性クローンを得た。そのうちgalectin 9 (Gal 9)とPINCHはすべての淡明細胞癌の癌部で正常部に比べ著しく高発現していた(18/18)。ヒト正常組織での発現はGal 9では脾臓とリンパ球を除いて極めて低く、PINCHではすべての組織で著しく低発現であった。HLA拘束性、抗原特異的に高い細胞傷害活性を有するCTL(細胞傷害性リンパ球)を誘導するペプチドを、Gal 9、PINCH共にHLA-A*2402については1個ずつ、HLA-A*0201については3個ずつ見いだした。誘導したCTLはHLAの一致する正常尿細管上皮や不死化B細胞に対する細胞傷害活性は示さなかった。更に、CTLにおけるCD107a陽性細胞のFACS解析、T細胞受容体Vβrepertoireについても示す。[結論] Gal 9並びにPINCHをターゲットにしたペプチドワクチン療法は極めて有望である。